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堅牢ともいえるロエーロの固定観念に逆らいつつも、土地への敬意を忘れない栽培と、純粋さを忘れないワイン造り。
2008年、電気技師としての仕事に見切りをつけ、曾祖父の頃より続いてきたブドウ栽培を引き継いだエンリーコ カウダ。彼のちょっとした好奇心・興味よりスタートすることになったワイナリー「Cascina Fornaceカッシーナ フォルナーチェ」はカナーレの西、サント ステーファノ ロエーロの南に位置する。
父の代まではブドウ・果実の栽培農家として営んできた。比較的山間部に位置していることもあり、銘醸地としては珍しく波多江の周囲は手つかずの森林に囲まれている。理由は採算性が悪い(細かく区切られているため、作業効率が悪い。そして急斜面のため大型の耕作機械も使えない。)という現実的な理由。ロエーロと呼ばれる地域の特徴ともいえる強い砂質は非常に崩れやすい、そしてTerre Biancheとも呼ばれる強い石灰質。樹齢60年という高樹齢(第2次大戦後に植えられた畑)のアルネイズ、ネッビオーロが植わっていながら、後継者問題や作業効率、そして一番の問題である過疎によって、放棄されてしまった畑が点在している。畑の環境や樹齢、土壌において言えばとても素晴らしい収穫ができるというのに、「採算性・作業効率」の名のもとに放棄されていく畑、小さい頃よりサント ステーファノで育ってきたエンリーコ、そして弟のエマヌエーレにとって、自然に囲まれたこの土地環境を愛し、守りたかったこと、そして何より、放棄される畑の存在に再び光を当てたいという想いより、自家醸造・ボトリングを開始。
標高は320~370mにかけて、父の持っていた1ha足らずの畑。そして2008年以降、周囲の放棄畑を少しずつ借り足していく。樹齢は古いもので55~59年になるアルネイズとネッビオーロ、しかしそれぞれの畑は0.16~0.23haという小ささ(合計9カ所)であり合計3ha。最大傾斜が30度を越える砂質、石灰質の強い斜面では、一切の耕作機械を持ち込むことができず、すべての作業が手作業によって行われる。丘の上部、南東向きに広がる高樹齢の畑、しばらくの期間放棄されていたこともあり、土地では10年以上農薬や化学肥料といった薬品類は一切使われてこなかった土地。そして周囲を完全に森に囲まれていることも、彼らの栽培にとっては必要不可欠なものになっている。
栽培については、周囲の自然環境を尊重した栽培を徹底している。ビオディナミ式の調剤を取り入れつつ、不耕起・無肥料栽培を実践。福岡正信の栽培哲学を学び実践。畑では一切の肥料、農薬を排除。強い砂質という事もあり、非常に水はけのよい土地。銅についてはほとんど使用する必要がない、最低限の硫黄のみ使用。雑草についても、基本的に刈り取らず草生栽培を行う。それでも樹齢の古いブドウ樹にとっては育成に全く問題がなく、さらには保水・土の流出を防いでくれる。
収量制限がほとんど必要ないくらいの結実量(1ha/4t)、さらに樹のクローンも近代化されていない(果実の熟成に時間がかかる)。
そして畑のいたる所で見られるピエ ディ フランコ(自根)、そして古典的なプロヴィナージュ。ロエーロ周辺の強い砂質は、フィロキセラの繁殖を防ぐ役割も果たす。現在、新しく植樹している畑については、接ぎ木を行っていない。
アルネイズ、フレッシュかつフルーティ、そんなイメージが定着しているブドウであるものの、それは本来の姿ではないと話すエンリーコ。「古い呼び名はネッビオーロビアンコ、古いクローンのアルネイズは、果皮が厚くタンニンを持っていて、長い期間樹上で熟成することができるブドウ。」、決して早飲みとして適しておらず、むしろ果皮の存在を表現することもできるだけの可能性を持っている。2008年より、ごく僅かな収穫ながら実験的に醸造を開始、ボトル詰めをスタートしたのは2011ヴィンテージより。生産量は合計4000本という少なさに驚愕する。
醸造は、ブドウのもつ特徴を純粋に表現することを基本に、段階的に醸造的介入を減らしていこうと考えている。アルネイズは9月末~10月上旬にかけて収穫。一部分においてマセレーション(果皮浸漬)を行い、酵母添加・温度管理を行わずに醗酵を促す。圧搾後、ステンレスタンクに移しアルコール醗酵、途中温度管理等行わずにそのままステンレスタンクにて熟成を行う。アルネイという果実の持つ繊細な香りと骨格ある酒質。十分な厚みとオイリーな質感、これまで味わったことがないかのような純粋なアルネイズを感じることができる。ネッビオーロは10月中旬~下旬にかけて、収穫後セメントタンク内にて20日間のマセレーションを行う。熟成は500Lの木樽にて24か月の熟成。ネッビオーロの持つ奥行き、複雑さはそのままに、アルバでは決して見られない柔らかみと繊細さ、ロエーロという土地の持つ軽やかさ、女性的な印象を表現。土地の持つ可能性、古樹の可能性、ブドウの純粋さを直球的に表現するエンリーコ。まだファーストリリースでありながらも、それ以上の存在感と未来を感じさせてくれる造り手。
≪追記2016.4≫
アルネイズにおいては、これまで「部分的な」果皮浸漬を試みてきたエンリーコ。2014の収穫からすべてのアルネイズのマセレーションを開始。
「単なる果皮の主張に終わらず、アルネイズ由来の香りや丸い酸を表現できた」そう話す彼。しかし、喜びも束の間、なんとDOCGの官能検査を通らないという事態。(ピエモンテではIGTが存在しないので、DOC,DOCGに通らないと、ブドウ品種はもちろん生産地域、ヴィンテージ表記もできません。)「確かにアルネイズと認められないことは残念だけど、それ以上にこの2014がイメージどおり表現出来たことが本当に嬉しい」と大きな手応えを感じたエンリーコ。そして、彼の父が代々受け継いできたアルネイズの畑の名前から、「Desajaデザヤ」と名を変えてリリース。
1リットルのネッビオーロ、「ヴィスカ」。「2014という厳しいヴィンテージということが、逆にワインに繊細さと軽やかさを与える結果となった。」と話すエンリーコ。そして、去年は≪単なる早飲み≫という動機しかなかったヴィスカ。しかし、飲み心地だけではなく、より≪ネッビオーロらしさ≫を引き出すため、昨年よりも熟成期間を取ることにした彼。≪飲み心地もよく、ロエーロより早いタイミングで楽しめるネッビオーロ≫というはっきりとした立ち位置。結果的に、ロエーロの生産量を絞り込み、さらに長い時間を費やしてリリースすることができるという、素晴らしい方向につながりました。
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